各タスクの平成12年度の成果概要 |
8. タスク8 水素製造技術の開発 8.1 研究開発目標 本研究は、平成5年度から実施されている「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)」において、従来の水素製造法に比べ、高効率・低コスト化が期待できる固体高分子電解質水電解法による水素製造技術の確立を目指すものである。 8.2 平成12年度の研究開発成果 8.2.1 無電解メッキ法による水素製造技術の開発 8.2.1.1 平成12年度研究目標 (1) 長期耐久性の向上研究 8.2.1.2 長期耐久性の向上研究 図8.2.1-1に耐久試験条件、図8.2.1.-2に耐久試験結果を示す。1,000cm2膜電極接合体10セルスタックにて、電解温度80℃、電解圧力0.7MPaにおけるDSS評価試験において、エネルギー効率は、初期値の88%程度から約100サイクル経過後に87%程度に低下しているものの、それ以降の220サイクルまでは87%前後を推移しており長期耐久性の目標であるサイクル数400回時でのエネルギー効率85%以上の目処を得ることができた。 8.2.1.3 大面積セル積層化技術の開発 10セルスタック面圧試験では現有のセパレータの加工精度を0.05mm程度に仕上げ、ジャッキ圧力15MPa、ボルトトルク19.6Nmとすることで、電極部圧力、シールパッキン部圧力ともに圧力分布状態をほぼ均一とすることが可能となり良好なシール性・電解性能が得られるようになった。図8.2.1-3にスタック締付圧力とセル抵抗の関係を図8.2.1-4にセパレータ面圧分布例を示す。 流動可視化試験及び流動解析結果から循環水流量が0.1〜2.5L/minの範囲であれば、本セパレータにおいてセパレータ内速度分布はほぼ均一となることが分かった。また、25セルスタックに対してはセパレータ出口穴径を現状の1.5倍程度の大きさにする必要があることが明らかとなった。 8.2.1.4 水素供給ステーション用スタックの試作 25セル組立模擬試験結果から、現状のセパレータ、スタック構造にて25セルスタックの組立て、積層化が可能であることが検証できた。これをベースに実機用スタックの組立て方法、手順についてその要領を取得した。 水素供給ステーション向け水電解装置用1,000cm2実機セルを用いて10セルスタックを組立てた。そのスタックにおいて、電解圧力0.7MPa、電解温度100℃の条件のもとでエネルギー効率90.7%が得られた。水素供給ステーション用スタックの実機仕様である初期効率90%以上を確認した。表8.2.1-1に1,000cm2実機セルの試験条件、図8.2.1-5に電流密度とセル電圧の関係、図8.2.1-6に電解温度と電流効率・エネルギー効率、図8.2.1-7に10セルスタック試験状況、図8.2.1-8に25セルスタック外観写真を示す。 8.2.1.5 まとめ (1) 長期耐久性の向上研究 8.2.2 ホットプレス法による水素製造技術の開発 固体高分子電解質膜を用いた大型積層電解槽の製作技術の確立を目的として、大型セルの製作技術の開発、大型積層技術の開発、高温高圧運転技術の開発を実施し、次の成果を得た。 8.2.2.1 大型セルの製作技術の開発 (1) 膜電極接合体の特性向上の研究 <1>電極の重量の均一度の向上 <2>膜電極接合体の皺の減少 (2)大型給電体の特性向上の検討 電極面積が2,500cm2セルの陽極側給電体として用いているチタン繊維焼結板は表面の繊維と繊維の隙間が広く、突き出ている繊維が多い。このため、圧接する膜電極接合体を損傷することが多い。このため加圧により圧縮成形する方法で表面状態を改善する試みを実施した。図8.2.2-2に示すが、圧縮には推力が3,000トンのプレスを用いた。試料の給電体は幅が270mm、長さが1,000mmであり5回に分けて圧縮成形した。厚さの精度はプレス前とほぼ同じ程度にでき、表面粗さRmaxは初め107μmであったのが36〜67μmに向上した。 8.2.2.2 大型セル積層化技術の開発 大型セルの製作技術の開発おいて得られた成果に基づいて特性を改良した膜電極接合体と表面粗さを向上した陽極側給電体を製作し、これらを組み込んだ電極面積が2,500cm2のセルを10セル積層した電解槽を製作した(図8.2.2-3)。 図8.2.2-4に電解特性の測定結果を示すが、目標のエネルギー効率90%を上回る特性が得られた。例えば、80℃、電流密度が1A/cm2の場合、平均セル電圧1.574V,エネルギー効率94.0%であった。図8.2.2-5に80℃、電流密度1A/cm2の条件の運転により得られた連続電解特性を示すが、電圧は初め1.57Vであったが800時間後に1.63Vになった。電流効率は初めからずっと変化せず100%に保たれた。また、エネルギー効率は初め94.0%であったが、800時間後は90.1%に低下した。 8.2.2.3 高温高圧運転技術 図8.2.2-6に示す電極面積1,000cm2のセルを3セル積層した電解槽の120℃での電解特性を測定した。図8.2.2-7に初期の特性を示すが、セル電圧が低くエネルギー効率が高い値を示した。例えば、電流密度1A/cm2の条件では電圧は1.49V,エネルギー効率は98.1%であった。図8.2.2-8は電流密度1A/cm2の条件で連続運転した場合の電解特性の経時変化を示すが、パッキンと給電体の間の隙間に電解質膜が食い込んで損傷が進んだため電流効率が次第に低くなった。この結果、エネルギー効率が73時間で90%を割った。今後、給電体の端とパッキンの間のような隙間など電解質膜が食い込いまないセル構造を開発し、高温での連続電解の長期化を図る。 8.2.3 水素製造プラントの経済性 第T期で計画した大型水素製造プラント(水素生産量:32,000Nm3/h)の概念設計及びコスト検討、平成11年度に実施した中型水素製造プラント(水素生産量:3,000Nm3/h)の概念設計、コスト検討を参照し、今年度は水素生産量:10,000Nm3/hプラントの概念設計及びコスト検討を実施した。さらに、固体高分子電解質水電解法による水素製造プラント全体のエネルギー効率を推算すると共にアルカリ水電解法との比較検討も実施した。これらより、中型〜大型に至る固体高分子電解質水電解法による水素製造プラントの特徴を把握し、実用化に必要な開発要素等の提言としてまとめた。 (1)水素製造プラント概念設計の前提条件 (2)プラント建設費
これまで実施した概念設計で得られたプラント建設費との比較を図8.2.3-1に示す。但し300Nm3/hプラントは建屋、土建含まれていないので参考値である。 (3)水素製造プラント配置 (4) 水素製造単価 以上の条件で試算した結果を表8.2.3-2に示す。 表8.2.3-2 から水素製造単価に占める電解電力費は73%となり、電気料金によって水素価格が大きく変動することがわかる。試算結果の一例として、操作温度、セル単価、電気料金をそれぞれパラメータとして電流密度で展開した図を図8.2.3-3,図8.2.3-4,図8.2.3-5 に示す。操作温度、セル単価についてはいずれも電流密度2.5A/cm2前後に極小が見られるが、電気料金については料金低下に従って極小部分が高電流密度側にシフトする傾向にある。 8.2.3.3 水素製造プラント全体のエネルギー効率 固体高分子電解質水電解技術の開発では、要素技術として電極触媒の開発、膜電極、セル構造など電解効率の効率向上を目指して開発が行われている。従ってこの効率向上が水素製造プラント全体のエネルギー収支(効率)とどの様な関連を持っているのかを知ることは大変重要である。そこで、Feasibility
Studyの一環として、今後の開発の参考のためにプラント全体のエネルギー収支の試算を行った。 なお、電解槽のエネルギー効率、水素製造プラントのエネルギー効率は次式で求めた。 水素製造プラントのエネルギー効率% =
上式において、水素製造量を一定とすれば分母の電解の投入電気量は電解槽エネルギー効率(%)によって変化する。交直変換ロスは交流の系統電力を直流に変換する際の損失分で、ここでは5%の損失を仮定した。また、ポンプ動力は操作圧力により変動する。なお、今回の試算では制御機器消費電力+放熱ロスを無視して試算を行った。試算結果を表8.2.3-3に示す。 表8.2.3-3は操作温度120℃のケースの試算を示したものであるが、出熱において電解槽エネルギー効率90%以上ではQ2(循環水)が−となっている。この原因は電解槽内の温度を120℃に維持できないことを示しており、プラントの運転では外部より循環水を加熱すべき熱量である。従って投入熱量にQ2を加えてエネルギー効率を算出したものをプラントエネルギー効率覧に( )で示した。 8.2.3.4 アルカリ水電解法 固体高分子電解質水電解法と比較検討するために、実際に稼働しているアルカリ電解法を調査した。例題として示すプラントは1986年にC社によってIndonesia Plaju Aromatics Centreに建設された水素製造量100Nm3/hプラントで、電解槽仕様は表8.2.3-4に示すとおりである。また参考としてフロ−図を図8.2.3-6に示す。 アルカリ水電解の最大の利点は長寿命で、10年以上が保証され、オーバホールを行うことによって30年の稼働が可能と言われている。従って、経済性の観点からアルカリ電解法は優れた方式といえる。また、最近のアルカリ水電解プラントでは改良、改善が進み、N社の例ではBipolar typeのセル構造で操作温度80℃、電流密度0.31A/cm2で端子電圧1.8V/cellを得ており、プラントエネルギ−効率を推定すると約75%である。 8.2.3.5 まとめ 平成9年度から4年間、固体高分子電解質水電解法の水素製造量300Nm3/h〜32000Nm3/h各種の実用化規模における概念設計を実施すると共に、アルカリ水電解法についても実用例を含め調査した。得られた主な結果は以下の通りであり、これらは今後の実用化開発への提言としたい。 (1) セル電圧、電流密度、運転温度、運転圧力等の操作条件においては、電解槽内の熱収支がバランスする条件から若干冷却が必要な運転条件を選定することが好ましい。 8.2.4 耐高温高分子電解質膜の開発 SRIインターナショナルでは、ナフィオンや他のパーフルオリネイティッドスルホン酸ハイドロカーボンイオノマーの代替化合物として、高温水電解槽に用いる新しい耐高温・高強度高分子電解質膜の開発を行っている。本プロジェクトの最終目標は、既存の電解槽よりも高い効率で水素を製造する高温電解槽(200℃)に使用するための固体高分子電解質膜の開発である。中温から高温までの温度範囲で働く高分子電解質膜が開発されれば、熱力学(開回路)ポテンシャルと電極における分極の両方が減少し(従って、電極における反応速度がかなり早まる)、水蒸気の電気分解の電気的効率が温度とともに上昇するため、結果的に水電解槽の効率を著しく増加させられることが期待される。市販されているパーフルオリネイティッドスルホン酸ハイドロカーボンイオノマーは100℃以上の温度で化学的に不安定になることが知られており、従って本目的には不向きである。 本年の研究目標は、最適化された機械的性質とプロトン伝導率を有する耐高温高分子膜を開発することである。特に、良好なフレキシビリティを有し、かつ扱いやすい高分子膜の開発に重点をおいて研究を実施した。この目標へ向けて、新しい高分子膜は、耐高温フルオリネイティッドスルホン酸ポリマーをベースにした高分子膜を開発し、この高分子膜が、室温でも150℃までに加熱しても、加湿の有無にかかわらず、充分なフレキシビリティをもつことを実証した。また、プロトン伝導率を低下させずに高分子膜の機械的性質を改良した。温度の関数として膜の伝導率を図8.2.4-1に示す。 8.2.5 耐高温高分子電解質膜の評価 大阪工業技術研究所では、(財)SRIインターナショナルで開発された耐高温高分子電解質膜のイオン伝導率評価、水電解性能の評価等を行いプロジェクト推進に貢献している。本年度は昨年度よりさらに薄い膜(厚み:50.8〜101.6μm)が開発され、イオン伝導率評価・水電解性能評価においては、純水中にて150℃程度までの温度領域で行った。91.4μm 、66.0μm 膜のイオン伝導性は、温度150℃において、約0.05〜0.06 S/cmであった。電流密度1A/cm2における槽電圧は、91.4μm 、66.0μm 膜について、それぞれ1.72V、1.59Vであった。66.0μm 膜については、電圧効率は150℃にて約90%(ΔHbase)を越える結果が得られた。 前年度に比較して、膜の破損する状況はかなり改善されたものの、依然として接合体作成中や測定中に、ピンホールやクラックが生じることによって、それ以降の測定が困難になることがあった。薄い膜ではその傾向が顕著であった。今後さらに高い温度領域、さらに高い電流密度域における検討と、機械的強度を含め膜の耐久性・信頼性の向上等が必要とされている。 8.2.6 水電解に関する文献調査 水電解は、アンモニア合成をはじめとする化学工業において必要不可欠な水素の製造を目的として古くから工業的に実施されてきた重要な工業プロセスであった。しかし、最近では石油や天然ガスなどの水蒸気改質による安価な水素製造法におされているが、クリーンな二次エネルギーとして注目されている水素を水から作り出す、唯一工業的に確立された方法として近年注目されており、これらの関連する研究状況を把握することは、非常に重要なことであると思われる。 そこで、最近の学会誌等で報告されている水電解に関する文献調査を実施した。調査対象として、今回は1999年7月〜2000年6月の1年間に報告されたものとし、各論文の概要と主要な図あるいは表を示した。なお、ここでは研究の大きな流れの把握を主な目的としており、各論文についての詳しい内容は原報を参照していただきたい。 8.3 今後の進め方および課題 研究開発の目標数字(エネルギ−効率:90%以上、80℃、1A/cm2)を達成しているが、耐久性、信頼性等に対する実証は大きな課題である。また、コスト低減技術の研究開発を意識した取組みについても、水素供給ステ−ション用小型セルの開発を通し実施する必要がある。固体高分子電解質膜の開発については、より数多くの膜の製作するような研究体制を整えると共に、水電解技術の最新の情報についても続き調査を行い、WE-NETの研究開発に生かしたい。 |