各サブタスクの平成8年度の成果概要 |
3.4 都市規模での予測評価
3.4.1 研究開発目標
本検討では、水素エネルギー導入効果を推定するための一環として、都市規模での水素エネルギーの導入手法、導入効果の検討を行った。 3.4.2 平成8年度の研究開発成果 3.4.2.1 シナリオについての分析結果 (1) 今年度の研究においても、初期の水素利用方法として、水素を都市部で輸送燃料として利用することが環境に大きな便益をもたらすことを確認した。昨年度においては、水素をハイタンとしてすべてのユーザーに供給した場合(ハイタンシナリオ)の評価を行い、今年度は、ハイタンを集中的に輸送手段に用いる場合、またはガソリン使用の内燃機関に添加剤として水素を利用した場合に、同様のメリットが得られるかどうかを検討した。これらすべてのケースにおいて、水素の価値は外部環境コストの減少分を直接評価して行った。 水素のプレミアム($/GJ)=外部コスト減少分($)/水素供給量(GJ) (2) この結果、全てのケースにおいて、水素の価値が予想される製造コストを上回る状況が存在することがわかった。昨年度の研究結果によると、輸送以外の用途に水素を利用した場合、大きな環境メリットは得られないことが確認されている。従って、エネルギー供給構造へ水素を導入する場合、都市部において輸送手段として水素を利用することが最も効果的な方法と考えられる。 (3) また、輸送燃料としての水素の価値を、その他の大気汚染物質排出抑制手段と比較し、回避される費用を算出する(触媒技術とハイタンの社会的純便益を比較する)ことにより評価した。その他の大気汚染物質排出抑制手段として触媒技術を取り上げた。この技術は、輸送機関において、排ガス低減対策として用いられている最も一般的な方法である。水素の価値は次のように示すことができる。
ハイタンによる実質的利益 = EH - CH 触媒技術と比較した場合のハイタンの実質的利益 = (EH - CH) - (EC - CC)
触媒技術と比較した場合のハイタンの実質的利益 = {(EH - CH) - (EC - CC)} / X or (EH - CH) / X - (EC - CC) / X (4) 環境への影響を低減する各種技術(ハイタン、ターゲットハイタン、水素ガソリン、触媒技術)の費用効果は、環境コストの想定によって大きく左右されることが明らかになった。また、技術に応じて想定コストへの依存度に差があり、この依存度は「技術的最高効率領域」のコンセプトによって示すことができる。 シナリオを比較することにより、各外部コスト(高い、中位、低いの3種)の想定に応じて、ロンドンの各地域においてどのシナリオが最も効率的であるかを特定できる。
比較結果を図3−4−1に示すことにより、それぞれの技術において他と比較して有益となる点を明確にすることができる。低い外部コストで特定の投資額の条件のもとでは、シナリオの中ではハイタンが環境に最大の有益性を有することが分かる。また、中位の外部コストではターゲットハイタンが、また高い外部コストでは触媒技術がそれぞれ最も有益性が高くなる。 (5) この条件のもとでは、環境改善のために優先すべき技術が一つではない。最適な選択基準は、環境影響に対して想定される損害費用、およびロンドンの中心部、市街地あるいは郊外のどこで技術を適用するかの両面から決まる。 表3−4−2は、ロンドンの3つの地域で水素をターゲットハイタンとして利用したときの価値を示している。この価値は推定される外部コストによって大きく変動しており、これらの価値を実際に用いるには、推計方法を理解することが必要になる。 (6) この分析を行う際には仮定条件を厳しく設定しているため、ここから得られる結果は慎重に扱わなくてはならないが、分析より、環境損害費用が高くなる場合はターゲットハイタンが優先すべき技術であるといえる。触媒技術は、高額な損害費用を想定した場合、ロンドン郊外においてのみ選択すべき技術である。 (7) 触媒技術は、高い環境損害費用を想定したときのみ費用効果的であるとする分析結果は注目に値する。この結果は、車両からの排出を抑える理由で触媒技術の採用を決定する際には高い対策費用が見込まれていることを意味しており、よって環境への損害費用は高く想定する方がより妥当といえる。 (8) 全体を通じて分析データを見た場合、仮定条件に対する結果の感度を踏まえる必要はあるが、初期的な水素利用法としては、車両へのハイタンの使用が最も費用効果的であり、まずはじめに育成すべき最適市場であることが考えられる。 3.4.2.2 インフラ整備についての仮説 (1) 以上の結果を踏まえ、インフラ整備及び移行シナリオに対して、いくつかの仮説がたてられる。ハイタンの輸送手段への利用を初期的な水素市場として検討した場合、純粋水素利用技術に使用する水素にも利用できるように、ハイタンの供給基盤を設計し、開発する必要がある。このことは、推計の際に想定した都市境界部でなく都市部において水素を天然ガスに添加すべきだということを示唆している。さらにインフラを新たに整備する場合には、ハイタンでなく純粋水素に対して設計すべきだということも示している。今後の分析においては、幾分異なる費用構成を考慮する必要が生じると考えられる。
(2) 重要な点は、都市内で水素と天然ガスを混ぜることによりターゲットハイタンを導入してしまえば、すべてのユーザにハイタンを供給するハイタンシナリオは純粋水素への移行技術として費用効果的ではなくなることである。その理由は、ハイタンは輸送部門での排出量の低減という意味で重要であり、これはすでに達成されていることになるためである。 (1) ターゲットハイタンの供給メカニズムとしては、例えばバスなど大量輸送ユーザを対象とするハイタン供給ステーションに水素を供給し、現地で水素を天然ガスに添加することが考えられる。これにより、純粋水素は、他の技術の費用効果が高くなりしだい、利用できる可能性がでてくる。これらの用途としては、例えば、発電所の燃料電池などがある。 (2) 以上のような手法は水素センターの“アイランド”開発構想へ結びつく。水素を最小限の費用と低いリスクで水素センターに供給する方法は、まず車両による方法である。これらのセンターで水素の需要が伸びるにつれ、大規模センターへの供給パイプラインを整備し、不要になる水素搬送車両は、新しい小規模センターへの供給に利用する。 (3) 他の水素利用技術の費用効果が大きくなるにつれ、初期的利用として輸送手段に依存する必要がなくなる。例えば、大型商業センターでは発電と空調用に水素燃料電池を採用する可能性が考えられる。 3.4.3 今後の進め方及び課題 (1) 今年度の検討において日本の諸都市、特に東京でのエネルギー利用に関するデータを確認し照合した。これは、本検討での手法を東京に適用するための準備段階であり、平成9年度に分析を実施する予定である。また、本研究の初期段階で得た結論がロンドンと同様に日本の都市にも有効であるかどうかについても検討する。
(2) これまでの分析は、典型的な都市環境(中心部、市街地、郊外)を分析することにより行った。この手法は、インフラ開発に必要な空間的要素を分析するには、異なる地域間を移動する車両が同一地域で燃料補給するとは限らないため、不十分である。 (3) 本検討の目的遂行のためには、平成8年度の検討による“アイランド”の周囲において他の水素利用用途を最も効果的に開発する方法を示すことが必要となる。これは平成9年度以降に検討する予定である。
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