(1)事業の目的
環境汚染に関する関心は、1990年代に気候変動枠組条約、京都議定書の採択などを経てクローズアップされ、化石燃料への依存が高まる日本においては、CO2を削減する新たな技術開発が喫緊の課題となっている。この課題を解決するためのひとつの手法としてCO2の回収貯留CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)技術があるが、現状では石油増進回収法(Enhanced Oil Recovery: EOR)による石油生産技術をベースに検討され、大規模な排出源が近くにあることを前提とする広大な地上設備を必要としている。
本調査研究は、地下水利用の及ばない深部の石灰岩層内において、ボーリング孔からマイクロバブル化したCO2を溶解させた溶解水を直接圧入し、石灰岩盤層を中和させることにより、これらのシステムの成立性を検討することを目的とした。
平成25年度は、我が国における対象岩盤の分布とそのCO2中和処理能力量の検討をはじめ、中和処理速度の閉鎖系室内実験を実施してCO2溶解速度を予測したほか、CO2溶解水の地盤中への移動現象についても既存解析コードによるシミュレーションなどで分析を進め本調査研究の成立性を確認した。
CO2地中中和処理システムのコンセプト
(2)実施内容
1)我が国の炭酸塩岩類の分布と中和処理能力の検討
地中中和処理の実証試験候補地としては、規模の大きい石灰岩・石灰質砂岩が分布するだけではなく、近傍に比較的大きなCO2排出源がある地点が望ましいことから、11地域を選択し、22地点の堆積盆について、分布する地層の化学組成を文献により調査した。選定した砂岩等の岩体については、分布規模、全体の埋蔵量からCa濃度による炭酸塩鉱物の含有量を推定する手法により、中和処理能力を検討した。
2)CO2中和処理のための流量制御の検討
対象岩盤の中和化能力は閉鎖系室内実験としてバッチ試験により調べ、岩盤中の溶解速度の予測は開放系の通液試験によって調べた。さらに、小規模模型実験を通して地盤中への移動を観察し、課題について考察した。流量制御にはマイクロバブルの挙動把握が重要であるため、流体中の気泡挙動を解析できるコードを開発し、石灰岩と灰長石が等量含まれる地層への二酸化炭素注入のシミュレーションを実施した。
3)原位置小規模実験計画の策定
原位置小規模実験サイトについて、文献により炭酸塩鉱物の構成率を調査した。原位置小規模実験は、炭酸塩岩を対象に10m程度の深さにCO2をマイクロバブルで地下水と共に注入し、帯水層を通過する間に中和処理が行われるかを揚水井兼観測井から揚水した地下水の水質調査により調べることとした。実験におけるモニタリング項目は、揚水の水質分析と、土壌および陸上のCO2ガス濃度とする。
CO2マイクロバブル注入における溶解速度の計算例
CO2に対する開放系(左)と閉鎖系(右)のカルサイト溶解のフィールドスケッチ